YASUMASA・YONEHARA
ヨネさんはみんなのゴッドファーザー。
米原康正(以下:ヨネさん)はegg,smart girls,さまざまなカルチャー、ファッション誌創刊に携わった編集者・CDにして、東京カルチャーを世界に発信するキーパーソンである。42歳からフォトグラファーと名乗り活動開始。今でこそ流行っているが、活動当初から「チェキ」をメインにセクシーな写真を撮り続けている。つい最近「マツコの知らない世界」では「チェキおじさん」としてゲスト出演。ストリートカルチャーが好きなキッズだけでなく、その存在はお茶の間の目に触れることとなった。58歳を迎え、なお自身の作品を進化させている現役バリバリのクリエイター、アーティストである。6月、7月と渋谷WAG Gallery、中目黒PAVILIONで連続して行われた個展「i am growing out my bangs」では写真をキャンバスに貼り付けドローイングを上から施したペイント作品シリーズを発表。「前髪は反抗の証」というテーマのもと誰もがメディアとなりえる昨今においての、ユース世代の精神性やアプリの加工ではないハンドメイドの生々しさが表現され、ポップで艶めかしいエロティシズムが炸裂している。
中国においても絶大な人気を誇るヨネさんは、自身の感性とひいては東京を輸出する代わりに、知られざる中国のストリートカルチャーを日本に届けたいと精力的に活動している。いわばなるべくして日中間のストリート文化大使でもあるのだ。
KOFU MURAL PROJECT HITOTZUKI WALL 前(山梨中央銀行本店裏)にて。ヨネさんと一緒に甲府を訪れていたGROUND STAR+を手掛ける橋本康正さんも一緒に。W康正に挟まれる私智久です。
たまたま旧くからお世話になっている先輩とのご縁もあって、さかのぼること半年くらい前、地元甲府でヨネさんとの出会いが叶った。僕からすればある種、神様のような人が目の前に現れたのである。とんでもない人なのにご夫婦でフラットに接してくれたことが嬉しかった。8月16日まで行われていた「古白米・セクハラ(Sexy harajuku)展」の最終日もあたたかく迎え入れてくれた。当然、僕だけでなくギャラリーを訪れていた全ての人をおもてなし。奥様の葉子さんも自家製のおつまみとキンキンに冷えた缶ビールを用意してミニバーで振る舞う。葉子さんのフォローとお互いの信頼関係が確立されているからこそ、ヨネさんはどこまでも突き進んでいけるのかもしれない。家族って原動力なんだな。
自身で雑誌を手掛けながらWARPなど他誌でも連載を持っていたヨネさん。僕が見てきたおしゃれヌードにはいつでもヨネさんの存在があったのだ。チェキカメラ独特のぼんやりした輪郭と柔らかい質感が女性の可愛さやエロさを引き立てていた。被写体がとにかく可愛いのが印象的。それは撮られている女性の表情がイキイキとしていたからだ。エロ本にはない、撮る、撮られるという行為を純粋に楽しんでいるのが誌面から伝わってきた。ただでさえ、声をかけることが憚られるほど美しい女性の、こんなにも可愛い表情を引き出すこの人はどんな人なんだ!とクレジット表記を血眼で探し、「米原康正」という人物の名に辿り着いたのである。以来、自分のなかの男としての憧れの人物だ。この辺の功績は僕が語るまでもなく、調べればすぐに詳細な情報が出てくるので参考にしてほしい。
「WARPのTOKYO SWEET では、その当時女子たちに人気だったモデルたちをセクシーに撮影したことて、大評判になりました」。ヨネさんは振り返る。smart girls然り、普通に考えたら脱がない女性をキャスティングし、実現してしまう編集力こそが魅力だ。そのままヨネさんの人柄を物語っている。ヨネさんに撮影をしてもらったことのある、僕のいちばん好きなモデルさんに最近会う機会があった。「超お世話になったよ。ヨネさんはずっと、みんなのパパだからね」。彼女は笑顔で言った。信頼の厚さがうかがえる。
カルチャーをつくるヨネさんと「おしゃれヌード」の系譜。
さて、そんなヨネさんの作品を初めて目にしたのはいつだろうか。記憶と記録を照らし合わせて振り返ってみる。
ヨネさんのクリエイティブワークでいちばん最初に思い浮かべるのは「ちんかめ」シリーズと言う人が多いと思う。当時の僕は中学生。色気づいて昔馴染みの床屋からヘアサロンに通い始めた頃だ。ど直球のエロ本やアダルトビデオを、野郎どもで集まって見ていたような僕が、ヘアサロンに置いてあったsmartで目にした「おしゃれなヌード」は新鮮であり衝撃的だった。ヘアサロンで堂々とヌードが見られるというシチュエーションが出来たのだ。大人ぶって、後ろで髪を切っている女性スタイリストさんに動揺を悟られまいと、必死に涼しい顔をしながら読んでいた記憶がある。しかし、あとになって当時ちんかめを撮っていたのは内藤啓介 さんということを知る。アイドルやファッション雑誌を中心に活動し最近ではサイバージャパンダンサーズの写真集を撮り下ろしたフォトグラファーである。
「ちんかめは内藤啓介撮影ですが企画立ち上げから関わっていて、最初の写真集には文章も寄稿しています」
恐縮ながらヨネさんご本人に詳細を確認したところ記憶の食い違い、というか疑問が晴れた。「ちんかめ」にはヨネさんのDNAが確かに流れていた。
ちんかめ (宝島社文庫) 文庫 – 2001/10 内藤 啓介 amazon
(初版は2000年発行で2001年に文庫版が刊行)
ちんかめはsmart誌面で好評を博しおしゃれヌードを凝縮したsmart girlsが創刊。第一号ではちんかめ特集が組まれた。当時、部数を伸ばしていたという「mini」でフィーチャーされるようなおしゃれモデルをピックアップしている。恐れおののけ。今宿麻美に横山優貴などがキャスティングされている。セクシーさをウリにしないモデルたちのセクシーな側面を切り取る。これはまさに革命的だった。
Smart girls 1―おしゃれなヌードの凝縮本! (e-MOOK) ムック – 2001/7 amazon
ヨネさん自身も存分にらしさを活かした「どこでもスナップ」をsmart girls誌面上で連載。写真集として刊行された。このときの帯には「ちんかめに続くおしゃれなヌードの決定版」というコピーが書かれている。この印象がつよいため「ちんかめ」と「どこすな」がアタマの中で混同してしまっていたのかもしれない。そして雑誌WARPの「ムチャ撮り」「TOKYO SWEET」など伝説的企画も産声を上げる。
ムチャ撮り 文庫 – 2004/7 米原 康正 amazon
ここでセレクトショップ「Revolution」の35周年に寄せて行われた藤原ヒロシと高橋盾の対談記事、京都精華大学でポップカルチャーの講師として藤原ヒロシが教鞭を奮っているというくだりから、一説引用したい。
カルチャーというのは、心を耕すこと。つまりポップカルチャーは、仕事に疲れた大衆が、生きていくうえで心を耕して、面白いことを自分なりに見つけようということなんです。……たとえばこういう授業をやってます。
Ring of Color 「2016.07.25
藤原ヒロシと高橋盾の対話。@Revolution, Sendai」より
eggは、当時まだヴェールに包まれていた新しいスタイルの女子高生の生態に迫り「ギャル文化」が生まれた。
ちんかめ、smart girlsが見せた「おしゃれヌード」の世界はたくさんの写真表現に波及しインスタグラムのニュースフィード上で脈々と受け継がれている。
日本の「チェキ」は進化を続け、一つのジャンルを確立。インスタントカメラ人気はドイツの老舗カメラメーカーまでもが追随するようになった。
ヨネさんが好奇心で耕し種を蒔いた土壌は、はからずも時を経て豊かに実っている。当の本人は新たに耕す土壌を探しに、世界中を駆け巡る。フォトグラファー、アーティストとしてのヨネさんの根底には、カルチャーをつくり貪欲に発信しつづける編集者の矜持があるのだ。そこが好きだ。そしてこれからもヨネさんはずっとヨネさんのままありつづけるのだろう。これからどんな土地を耕し、どんな実を結ぶのか。目が離せない。
9月8日からカイカイキキが運営する中野ジンガロギャラリーにて個展を開催予定。
PAVILIONのウェブサイトでは、好評の「i am growing out my bangs」シリーズが追加販売となっているのでチェックしてほしい。
かわいくとってもらったよー。ヨネさんの手にかかれば、三十路のむさくるしい二人もこの通りだ。手に持ったpersona.は永久保存版。カバーガールにも注目。セクハラ展についてはこちら
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