雑音RADIO #1 Tsuyoshi Kawaguchi


撮影ロケーション:HITOTZUKI KOFU MURAL at 山梨中央銀行本店 via KOFU MURAL PROJECT MURAL ART by HITOTZUKI

このミューラルアートは甲府市が主催する「中心市街地ストリート再生事業」の一環として世界的なミューラルアーティストであるHITOTZUKIを招き、山梨中央銀行の協力により制作されたものです。

詳しくはこちら


**

雑音RADIOと題した本稿企画は個人的に会いたいアーティストのもとへ会いに行き、フリートーク形式のインタビューを収録。私的テキストラジオとして不定期で記事を配信していきます。

**

** 

待ち合わせた場所で長身で爽やかな青年を見つけることは容易だった。プレーンで品の良いニットのトップスとパンツ。シンプルな着こなしでも背があると様になって羨ましい。礼儀正しく挨拶を交わした好青年としばし音楽談義に花を咲かせた。

 Tsuyoshi Kawaguchiは同じ山梨県、合併して出来た同じ市内出身のサウンドクリエイターである。9月に発売された1stアルバムの名前は「TREE」。アルバムにクレジットされているのは地元山梨の雄PONYを始め、Jimmenusagi、Ittoなどシーンを最前線で盛り上げるアーティストたちが名を連ねている。その樹、何の樹。気になる樹になる。 (文中敬称略)

 ** 

師匠とGAGLEとヒップホップと。

 —シェフくん※はどういった経緯でヒップホップに携わるようになったんですか?

 ※Tsuyoshi Kawaguchiが正式なアーティスト名義だが、Chef Beats(シェフビーツ)という名前で活動していたこともあり、そう呼ばせてもらうことにした。


Tsuyoshi Kawaguchi(以下T):僕は中学の頃に、キックザカンクルーが流行っていたんです。日本語のRAPって、こんな感じなんだーってなんとなく「マルシェ」とか聴いていました。同時期にリップスライムとか、ホームメイド家族とか、ライムスターなどメジャーアーティストがヒップホップの入り口でした。それから18歳くらいになって知ったGAGLEに衝撃を受けましたね。Mitsu The Beatsさんのトラックもめちゃくちゃ好きでハマりました。その影響で、J.DILLAとかPETE ROCKとか聴いてのめり込んだパターンですね。


 —今回のシェフくんのアルバムを聴く限り、納得ですね。Mitsu The Beatsさんへのオマージュというか、世界観、同じベクトルにいるなーという感じ、すごく伝わります。トラックメイキングする際のインスピレーションとかはどんなものから得てます?


 T:僕にとっては神様のような方ですね。インストでこんなに聴けるのか、と。もはや声、いらないじゃん。くらいに当時思っていて(笑)ミツさんがホセ・ジェイムスとやった「Promise in Love」っていう曲があるんですけど、それが最高でしたね。歌モノだったんですけど。振り返ってみるとラップより歌モノ聴いていたことが多かったかもしれないです。あとディアンジェロとか。ジャズの歌モノ好きなんですよね。インスピレーションは、やっぱり音楽が多いですね。このフレーズいいなーとかそういう聴き方をしています。頭の中のイメージを基にパッドを叩いてビートを構築していきます。ベースは自分で弾いちゃうことが多いですね。 


—ディアンジェロはand The VANGUARD名義で去年来てましたよね。アルバム、「BLACK MESSIAH」も良かった。ジャズマナーは僕は全く疎いけど。音もヴィジュアルもかっこよかったです。


 T:そのアルバム、お気に入りの曲あったんですけど、ど忘れしちゃいました(笑)


 —でもシェフくんは最初、音楽をやり始めたのはラップからなんですよね?


 T:ほんと1年間くらいですよ。トラックメイキングと同時に友人と始めて。速攻で自分は向いていないって思って音楽を作る専門にシフトしました。もともと音を作っているときの方が楽しかったんです。


 —最初から音作りとラップを同時に始めたんですね。トラックメイキングはどのようにして身に付けたんですか? 


T:北杜市に「MASHUP SOUND」っていうスタジオがあるんですよ。そこでDTMを学びました。スタジオを運営している吉田さんという方が僕の師匠になりますね。何でも作れて、大手のメジャーレーベルに納品しているような人なんですけど、お互いにヒップホップが好きというところで意気投合しました。そもそもはネットで調べてたらDTM講座をスタジオが開いていて、そこに通って吉田さんから基礎的なことは全て教わりました。その頃から機材とか買い始めましたね。ラップするよりも先に、音を作りたいって気持ちが大きかったです。

Promise in Love feat. Jose James / DJ Mitsu the Beats (GAGLE / Jazzy Sport) via Youtube

山梨、静岡、東京、仲間との出会い。

 —話しは変わりますけど、いつまで山梨にいて都内に移ったんですか?


 T:ほんの1年半前ですよ。それまでは静岡県の富士宮に仕事で2年くらい住んでいました。会社員やりながら音楽作っていたので。仕事を辞めて、東京に行こうって決心して今都内と山梨を行き来しています。


 —東京に行くって決めたのはどんな理由で?都内ではどんな活動が中心なんでしょう?


 T:単純に、東京の方がチャンスあるんじゃないかと思ったんです。本当はstillichimiyaの方々のように地元で拠点を作って活動したいんですけどね。自分にはまだ及ばないところなのでまずはやることやらなきゃっていう感じで東京に出ちゃいました。トラックメイキングの依頼がありがたいことにチラホラあるので、制作しながらイベントに参加したりといった感じですね。


 —本当は山梨に拠点を置きたい気持ちはあるんですね。


 T:ぶっちゃけ、人ゴミがあまり得意じゃないんですよ(笑)本当は自分には合ってないんですけど、そうも言ってられないですね。まずはいろんな人に会って自分の楽曲を聴いてもらうことを優先してます。


 —イベントに出るのはひとりで?


 T:Groove Factoryっていうグループでも活動していて、その仲間たちとたまに出演しています。アルバムにも参加してくれています。 


 —メンバーとの出会いもイベントだったんですか?


 T:メンバーはラッパー二人と僕なんですけど、Sound Cloudで僕がアップしている楽曲を聴いて、連絡をくれたんですよ。それで誘ってもらいました。ネットにアップし始めたときに連絡くれた二人だったので、そのままグループに加入するかたちになりました。東京に行ったと同時に活動できる受け皿が出来ていたのは大きかったです。クラブイベントからライブハウスで周りみんなバンドの中やったりとか、ありとあらゆることをとにかくやってました。 

at AKITO COFFEE

アルバム「TREE」を形成するアーティストたち。

 —数々のイベント出演を経て、色々なアーティストと出会ったんですね。参加しているアーティストについてそれぞれの出会いやエピソードを聞かせてください。 


T:イントロからの一曲目「ソノママタイ」のPONYさんは、音楽をやり始めたときに組んでいた相方がソロライブをやったときに出会ったんです。PONYさんがライブを観に来てくれていたんですよ。その時に話しかけて、最初に作ったインストのアルバムがあるんですけど、それを名刺代わりにお渡しさせてもらって。それがきっかけで一緒に制作することになりました。


 —曲名の「ソノママタイ」っていうのはそのままタイってことですよね?


 T:ちょうどトラックを渡した日に、タイだったらしくて。その日のエピソードとか思い出とか、空気感を全部詰め込んだ日記だとPONYさんは言ってましたね。そして渡したアーティストの中でリリックが送られてきたのが一番速かったです。タイから帰国した当日にリリックとプリプロが飛んできました。さすが、Speedy P※だなって驚きました。一番速かったにもかかわらず、楽曲も最後の最後まで粘っていろいろ試してくれたんですよね。アルバム完成品渡したときも、ソッコーで電話くれて、「全曲いいな!それだけ!」って伝えてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったですよ。

 ※PONYさんが名乗る別称。  


—お世辞を言うような人ではないので、本当の感想ですねそれは。カルテットのNALさんとは? 


T:僕、ありがたいことに活動していく中でホームメイド家族さんたちと知り合うことが出来たんですけど、ホームメイド家族と仲のいいグループが同じ名古屋拠点のnobody knows+やカルテットなんですね。あと個人だとシーモさんとか。で、そのコミュニティの中でカルテットのNALさんが僕が当時使っていた「Chef Beats」という名前を気にかけてくれたんです。「シェフビーツって何スかー?」って。それでホームメイド家族の皆さんが僕とつないでくれて出会いました。嬉しくてデモを送りまくって、一緒に制作をすることになりました。出来上がったときにアルバムの話しをしたら、快く了承してくれて今回収録されました。曲を作っているときはそのままNALさんの曲として使ってもらうつもりでやっていたんですが、なかなかタイミングが合わなそうな感じだったんで、僕のアルバムに入れてもいいですか?という流れで。  


—フリースタイラーとして地上波でも活躍しているTK da 黒ぶちくんとはどんな感じだったんですか?  


T:黒ぶちさんも本当にいい人で。めちゃめちゃ優しい方なんですよね。GrooveFactoryのメンバーの一人がフリースタイルやってるんですが、「罵倒」っていうバトルイベントで黒ぶちさんと戦ってたんですよ。試合後に二人が意気投合して仲良くなりまして。僕もちょろちょろっと混ぜてもらった感じですね。最初は黒ぶちさんのアルバムに入る曲を一緒に作りたいってお話をいただいて、トライしたんですけどうまくいかなくて。でも「せっかく出会ったし違うかたちでも、絶対1曲仕上げようぜって」って言ってくれたんですよね。なのでじっくり時間かけて二人で1曲を作り上げました。トラックとラップのバランス感が良い具合に仕上がったのでアルバムの中で自分的にかなりお気に入りです。理想的なかたちで完成できたというか。 


—アルバム通して気持ち良く聴けたんですけど「朝が来るまで feat.kiki vivi lily」が個人的にすごい好きです。  


T:この曲だけは作曲に師匠の吉田さんが参加してくれてるんですよね。作曲面で大きいパーセンテージで手掛けてもらったんで、この楽曲では僕はプレイヤーに回ろうと思い声を入れさせてもらいました。


 —ポップで聴きやすかったし、二人の声の対比も良い感じでした。kiki vivi lilyさんとはどのように制作したんでしょうか。 


T:ここ最近はヒップホップアーティストとのフィーチャリングワークが多い印象ですけど、もともとkiki viviさんがポップスなので、極力ポップスに仕上がるようにしました。1年前くらいに「ゆり花」名義から今の名前に変更したんですよ。で、Jinmenusagi(以下:ジメサギ)さんとIttoさん、ビートメイカーのスウィートウィリアムさんとの「Sky Lady」がめちゃくちゃ人気になって。女性ヴォーカルアーティストと曲をやりたいっていうのがあったんでぜひkiki viviさんに歌ってもらいたいとお願いしました。ゆり花名義の時から知っていたのですが、ラジオ日本のテッパンて名前の番組だったかな。それをYouTubeで見たのが最初で、いい声だなーって印象的でしたね。kiki vivi lilyの名になって「Sky Lady」で観たときに、あっ!ゆり花!って驚いたのを憶えてます。


 —曲の中でkiki viviさんと共演することになったわけだけど、作詞をするときはどんな風に展開していきますか?視点とか世界観とか。 


T:歌詞については、僕はテーマを決めてから書きますね。自分の言葉として書くときもありますし、第三者となってこんな感じかなと書くときもあります。まあ、正直に言うと僕はあまり歌詞にはそこまでこだわってはないです(笑)


 —グルーヴ感だったり、トラックとのマッチングを重要視しているということですね。でもちゃんとシェフくん固めに韻を踏みますよね。それは好みですか?


 T:COSAさん、GAGLEのハンガーさん、ライムスターの宇多丸さん、田我流さんなどやはり韻をしっかり固く踏むラップが好きだと思います。僕が書くときは韻を踏みつつ文としても成り立つようにはしたいと考えてますかね。


Tsuyoshi Kawaguchi - 朝が来るまで feat.kiki vivi lily via YouTube


 —なるほど。そしてそこからアルバムは、ジメサギさんIttoさんの曲へと続いていきます。正直な印象で言うと、この二人とシェフくんの組み合わせは意外でした。トラップとか、チルアウト系のフューチャーベースでラップしているイメージがあったので。でも、バッチリハマってて新鮮でした。歌詞の内容云々よりも声とかフロウがひとつの楽器として機能しているような気さえしてきます。歌詞についてもよくよく聞くとちゃんとストーリーテリングしていて何回も聴ける工夫があって面白いですよね。  


T:ジメサギさんIttoさんは交遊の幅も広いですし、スタイルの懐も広いですね。ジメサギさんとIttoさんのお二人は同じイベントに出演したときに知り合った経緯があります。アルバムの曲の「Boiler」の「沸騰沸騰オイラはボイラー」っていうフックのパワーすごいですよね。伝わる人には伝わるし、伝わらない人には伝わらない。でも声やフロウで聴かせる側面もあって、結果成立させてるっていう。 


—いろいろなアーティストとフューチャリングワーク出来るってことは、それだけ求められているってことですし、ちゃんと馴染みつつラップを含めキャラクターが立っているお二人ですね。今回アルバムに客演したアーティストで会ってなくてメールのやりとりだけって人はいます? 


T:ほぼ全員、会ってお話して音源を渡して制作していますね。メールでも出来ちゃうんでしょうけど。一人だけ「City light」で参加してもらって英語でラップしているC-Cleさんだけは韓国の方なんで、メールでのやりとりになってしまいましたが。 


 —どうやって知り合いに?  


T:知人のアーティストの方に紹介してもらいました。韓国のヒップホップシーンで頑張ってらっしゃる方で、ぜひやりましょうとお願いしました。僕が静岡にいるころから、コンタクト取ってたんで付き合い的には2年くらいです。韓国の音楽シーン、マジでかっこいいアーティスト多いですよね。世界的に盛り上がってるトラップはもちろんヒップホップ、バンドサウンドもポップスも全部イケてるなあって思います。オシャレ。個人的にはZion.T(ザイオンティ)というHIPHOPとR&B両方イケるアーティストがいて「No Make Up」という曲がヤバかったです。おすすめです。


[MV] Zion.T(자이언티) _ No Make Up(노메이크업) - via YouTube

人とつながって出来た「TREE」  

—今の話しで、「トラップ」と呼ばれる要素の楽曲がアメリカを中心に世界的な流行になっているけど、意識したりはしない?もともとはアトランタとかアメリカ南部のギャングたちのライフスタイルを反映したものだから、安易に音楽ジャンルとしてくくったり、トレンドとして取り入れるのはどうか。というような声も上がっていて。賛否があるってことは流行だけでなくそれだけ成熟してきているのかもしれないと客観的に思うんだけれど。日本のヒップホップといっても具体的な時期は指定できないけれども今よりも昔はもっとハードコアとポップのラップ間での論争が絶えなかったし。シェフくんの音楽性とトラップミュージックは対極ですがどう感じます?


 T:確かに、時代的に求められることはありますよ。著名な作曲家の方に、「トラップミュージックは作れるの?」っていうような内容を尋ねられることもあります。トラップが内包するカルチャーを模倣することはもちろん出来ません。単純にひとつの方法論、表現としてとらえるとすれば、今までは作ったことがないのでいろいろな手法を試せる機会ではありますよね。なので試みてはいたりします。


 —新しい方法論といえば、シェフくんのアルバムの話しからはだいぶズレてしまうけど「PUNPEE/Modern Times」が発売したね。聴きました?  


T:まだ聴いていないんですよ!この後TSUTAYAにご挨拶に行ったら、買おうかと(笑)この前たまたま5lackさんとイベントでばったり会ったのですかさずデモを渡しました。 


—個人的に5lackさん、アーロン・チューライさんのようなガッツリジャズ畑の人とやったり、オリーブ・オイルさんのようなジャジーでチルアウト的なトラックでここ最近やっているイメージがあるので、なんかシェフくんに合いそうな気もするよね。ぜひ板橋の生きる伝説兄弟と共演してほしいです。


 T:それめちゃくちゃやばいですね。PUNPEEさんにも同じようにイベントでばったりお会いしたことがありますけど、あのご兄弟は、楽曲も最高ですけど、ほんとに人柄も良くて素晴らしい人たちでした。


 —そういうハプニング的な出会いがあったときに渡せるものをちゃんと用意するっていうのも大事なことだよね。音楽やってるんですよーって言っても、たぶん全然伝わらない。聴いてもらえるかわからなくてもとにかくカタチとして渡す方がいいですよね。僕だったら、仕事で制作したフリーマガジンかなあ。


 T:そうやってさっきも言ったようにジメサギさんやIttoさんともつながって、今回の作品に参加してらえることになりましたからね。地味で地道ですけど、それしかない。


 —音楽を通して人とつながってアルバムが出来たと。アルバムのために曲を作るというよりは、それぞれの曲が出来てそれを一つの作品の中に落とし込んだという感じなんですよね。アルバムタイトル「TREE」はそういったことも意味も込められているんですか?


 T:そうですね。途中からはアルバムを意識して作ってもらったものもありますけど、総じて多くの人に関わってもらったことと、人とのつながりにあらためて感謝出来たので。ジャケットも身内、というか親戚のイラストレーターにコンセプトを伝え描いてもらったんです。すごい親身になって聞いてくれて。嬉しかったですね。

トラックメイカーとライターは似ているかもしれない。

 —後半にVue de monde&Atsutaの盟友Groove Factoryの面々との楽曲が集中していますがこれは意図した構成ですよね。一枚を通じて、自分的にお気に入りのトラックはありますか? 


 T:Groove Factoryの楽曲を後半にまとめたのは、前半は客演のミニアルバム、後半はGroove Factryのミニアルバムというような、1つのアルバムに2つのアルバムが存在するようにしたかったからです。節目節目にインスト曲で区切っている感じですね。トラックとして一番気に入ってるのは「Night Age」です。


 —なるほど。今回のアルバム制作を通じてシェフくんが実感したことや心境に変化はありますか? 


T:素晴らしいメンバーとアルバム制作することが出来たので、僕個人でももっと頑張りたいです。今回のメンバーと本当の意味で同じステージに登りたいというか。そういう願望はアルバムを作ってより強くなりました。参加してくれたアーティストはみんな僕がリアルタイムで聴いてきた人たちばかりだったので、正直、そんな人たちと一緒にアルバムを制作するって一体どういうことなんだろう?と、自分でも困惑するくらいでした。結局、自分の好きな人たちにアプローチをかけたんです。そうして出来上がったのが「TREE」です。みんな名前が知られている人たちで僕だけ無名だし、心配や不安が大きかったのは事実です。知名度がないのでしょうがないことなのかもしれませんが、実際今までお願いしてきている中で無視されたりすることも多かったんです。でも今回お願いした人はみんな快くレスポンスしてくれたので感謝しています。一生僕の中では欠かせない人たちですよね。無名にもかかわらず力を貸してくれましたから。それが得たものの中で一番大きなことだったかもしれないですね。  


—逆に、知名度がない中で、快く引き受けてくれるっていうのはシェフくんの人柄もあるけれど、トラックメイキングの実力に一目置かれているってことなんじゃないでしょうか。なかなか最近、フィジカルで一枚のアルバムを聴くっていう習慣が、サブスクリプションの音楽サービスの普及で薄れてきてしまっている気がしますけど、イチ個人的な感想として月並みな言葉だけど「TREE」は一枚通して聴きたい、聴けちゃう一枚でした。アルバムの世界観が統一されているし、アルバムの存在意義の原点に立ち返るような気持ちで聴けて新鮮でしたよ。録音環境は統一しました?それとも参加アーティストによって違うんですか? 


T:声はアーティストの皆さんにお任せしちゃって、フラットの状態で送ってもらいました。最終的なミックスをこちらで手掛けるという流れです。トラックを渡して、声が入って返ってきたときに、全く別のものになっているんですね。みんな色んな角度で、イイ意味で裏切られまくるんですよ。それがめちゃくちゃ楽しかったですね。みんなの力を借りて今回の作品は声によって曲が完成する楽しみを体感することができたんですけど、将来的にはインストアルバムでJ.DILLAのように聴かせられたらいいなと思ってます。


 —今回のアルバムがそのきっかけになるんじゃないでしょうか?むしろ、そうあってほしいと思います。


 T:今回カタチにしたことによって、反響はありました。SNSでDMがめちゃくちゃ来て、試聴器聴いて即買いしましたとか。励みになりますね。タワレコさんが試聴器入れてくれたのは大きかったです。


 —僕的には山梨の人にももっと知ってほしいなっていうのがすごいあって。今回インタビューしたのもそういう意図がありますね。山梨から世に出ていっている人、特に若者に関心を持ってほしいし、僕自身、応援したいなと。文章にして伝えることが自分の仕事だし表現方法としているから、それで少しでも役に立てたらいいなと思ったんです。僕自身刺激をもらえる。


 T:僕も知名度を上げなければと思っているんで、そのように思ってバックアップしてくれることは本当に嬉しいです。トラックメイカー、プロデューサーって今でこそヒップホップではステイタスを得ていますし、一般的にも注目が集まることがありますが、なんだかんだ裏方のポジションで歌い手に注目集まりがちじゃないですか。ライターさんも近いですよね。気持ち的にすごくシンパシーを感じます。ライターさんで言うと取材対象に注目が集まる。というかそうでなければいけないけれど、自分の知名度も上げていかないと食っていけないというジレンマが常にあるじゃないですか。


 —今、ライターが読モ化しているなんて言われる側面もあるんだけどね。メディアを使っていかにセルフプロデュースするかというのはどの業種でも大前提としてありますよ。逆を言えば、ライターにとっての取材対象、トラックメイカーにとっての歌い手に注目が集まったり売れたりしたら、それを観た、聴いた人の何%かのひとが「コレトラックつくってるのだれ?書いたのだれ?」って興味を持ってくれるかもしれないですしね。良くも悪くも。石を積んでは崩すような地道な作業だけど引っかかってくれる人が一人でもいればゼロじゃないなと。なので、シェフくんのアルバムは売れてほしいな(笑)ひたすら僕はいい文章を書き続けて、シェフくんは良い曲をつくり続けるしかないですね。これからのTsuyoshi Kawaguchiとしての展開はどのようなことを考えています?  


T:やはりどこかで現場でのアウトプットはしていかなきゃとは思っています。ビートだけでライブするとか、Groove Factoryに混じってライブするとか、色々考えてるところですね。ビートライブは個人的には好きなんですが、コアな層には届くかもしれないけど、一般層の人に届けるのは難しいのかなと思います。今回のアルバムは全体を通して一般の人、普段あまりヒップホップを聴かない人に聴きやすくするのを意識したんです。


 —確かに、聴きやすかったし、イイ意味で聞き流せるアルバムでしたね。耳触りが良くて心地がいい。気づいたら何周かしている。アーティストそれぞれのキャラ立ちも声も良くて。今回のアルバムのメンツで、シェフくんのワンマンとかいいと思うんだけど。 


T:そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。「TREE」に参加してくれたみなさんを呼んで、ワンマン実現したいですね!

TSUTAYA甲府昭和店ではTsuyoshi Kawaguchiの手売り分を個人委託として販売、展開中。

**

Tsuyoshi Kawaguchi 

『Tree』 

2017.09.27 Release 

 01. Go out (Instrumental) 

02. ソノママタイ feat. PONY 

03. 愛しのビート feat. NAL fromカルテット 

04. ガイダンスがガイド feat. TKda黒ぶち 

05. 朝が来るまで feat. Kiki vivi lily 

06. Boiler feat.Jinmenusagi 

07. The Greatest Version feat.Itto 08. City light feat. C.cle

09. My STYLe 

10. GFP feat. Vue du monde & Atsuta 

11. イエローメロウ feat. Vue du monde & Atsuta 

12. Night Age feat. Vue du monde & Atsta 

13. Time Film feat. Vue du monde & Atsuta 

14. Along with the music (Instrumental) 

WBSBR244 ¥1,800+tax

FORMAT : CD

LABEL :わびさびレコード

バーコード:4526180427810

Tsuyoshi Kawaguchi 

山梨県出身 Hip Hopに魅了され、音楽制作に興味を持ち活動を開始。山梨県北杜市 mashup sound にてDTMを学ぶ。 Groove Factoryの一員として東京近郊を中心に活動。 現在はソロとしてInstrumental楽曲を中心に制作する傍ら、ラッパー・シンガーや映像クリエイター・イラストレーター等様々なアーティストへの楽曲提供、イベント参加など活動の幅を広げる。 chefbeats名義にてソロInstrumentalアルバム「mashup recipe」制作。 Groove Factoryにてアルバム「Groovy World」をネット限定販売。

Twitter

https://twitter.com/chefbeats244 

instagram

おまけ
逆インタビュー

T:ちなみにヒップホップはいつから好きだったんですか? 


—僕の話をすると、音楽好きの親戚の姉の影響でパンクロックを聴いていたんですが、ヒップホップに関してはハードなジャパニーズヒップホップから聴くようになりました。中学時代はちょうどキングギドラのリブートアルバム「最終兵器」がすごいインパクトで。弟と一緒にかなり影響を受けました。リップスライムとかキックザカンクルーはすでに世に出ていて、めちゃくちゃ好きだったんですが、それらとは明らかに毛並みが違うぞ、と。飲みやすいカクテルを飲んでいたのに、いきなりストレートのウォッカをガブ飲みさせられる感覚です(笑)その後、エミネムが出した三枚目のアルバム「THE EMINEM SHOW」が日本でも話題になって。ヒップホップ=黒人のラッパーというステレオタイプのイメージが当時はあったけれど、白人のラッパーが全米一位ってどういうこと?と思い、来日公演があるって聞いて、チケットが取れたので見に行ったんです。デビュー間もない50CENTやD12も勢揃いで。そのライブでめちゃくちゃやられました。同時期に「8 Mile」が公開され、本格的にヒップホップにのめり込みました。


 T:なるほどですね。誰が好きとかあります? 


—インタビューしに来たのに、インタビューされてますね(笑)stillichimiyaは今でも憧れますし、好きな人たちですね。当時は気合い入りまくったハードなラップがクールっていう安直な感覚だったんですけど、17歳か18歳の頃にstillichimiyaの人たちと出会って、その価値観はひっくり返されました。かっこつけていなくて自然体なのにかっこいいという。自分にはないありのままのかっこよさが羨ましかったです。僕の中では革新的で。出会いはまだstillichimiyaが自主制作盤をつくっていた頃。一宮町の合併に異議を唱えるポリティカルなメッセージ、地方都市の未来を憂い、だけど地元に誇りも持っているという内容が盛り込まれたEP的なものを作ってましたね。当時からバチバチのヒップホップマインドと反骨心を根底に持っていて。今でこそクルー(チーム)でアートワークもビデオも楽曲も全部自分たちだけでやるっていうのが主流ですけど、10年以上前にそれを最初からやってるっていうのもすごいですね。ないものは全部自分たちでつくるスタンス。その出会いから、SEEDAさんとかNORIKIYOさんとか「CONCRETE GREEN」※に入っていたようなアーティストを知ることも出来ました。

※SEEDA&DJ ISSOが手掛けていたMIX CDシリーズ。全国各地のアンダーグラウンドながら実力のあるアーティストが名を連ねていた。


 T:いやほんと、すごいですよね。その通りだと思います。山梨出身なんですけどまだ一度もstillichimiyaメンバーの方にお会いしたことがなくて。You tubeの「うぇるかむとぅやまなし」に紹介されてる場所片っ端から行きましたもん。スタジオ石のビデオもやばいし。最近のMAHBIEさんと田我流さんの曲もかっこよかったです。 


—JAZZY SPORT好きなシェフくんなら間違いないね。BigBenさんの運営するBIG FLAT※に出入りしているみたいですよ。行ったことは?

 ※stillichimiyaの屋台骨BigBenさんが運営するアンテナショップ。stillichimiya関連、レコード、タイ雑貨、諸々取り揃えている。運が良ければ他のメンバーや交流のあるアーティストがふらっと現れるのだ。


 T:まだ行けてないんですよ。場所もイマイチ分からなくて。 


—じゃあ今度、一緒に行ってみましょうよ。もしかしたら新しい出会いもあるかもしれないし。行くだけでも良い場所です。あのお店は。


 T:ぜひ次回は連れて行ってください。

 

0コメント

  • 1000 / 1000