Kouichi HIRAYAMA
Illustration by Koichi HIRAYAMA AKITO COFFEEにて
イラストレーター平山広一さんは東京を拠点に全国各地を旅しながら、画を生業としている。先輩のブライダルで仕事したときの出会いだった。先輩とは、ヒップホップイベントのMCをしていたころからのお付き合いがある。僕に司会の仕事を依頼してくれた。平山さんはその日の披露宴参列のゲストを一人残らずその場で描ききり、1枚の作品にして新郎新婦にプレゼントする。ブライダルの依頼は多く、全国各地に足を運ぶ。その斬新なワークスタイル、作品の表現もさることながら、平山さんの人柄に強烈にひきつけられた。「1度、お会いして話しをしないと絵を描くことはできない。わざわざ来てもらって話しをして、お茶や食事をともにしたりする時間が制作に繋がるんだ」平山さんは人と心を大切にする。人柄、出生、背景、今に至るまでのストーリーと思いをヒアリングした上で、まるごと絵の中に描き込んでいく。
旅の相棒だと話す、ミッションワークショップのバッグパックの中にはきちんと書類と制作に使う道具が分けてパッキングされており、無駄がない。必要最小限の荷物と画材を持って各地へ繰り出す。煙草は吸わない。過去に肺に穴が空いたことがあるから。たまに、会場を間違えてしまったりすることもあるという。山梨のつもりが実は栃木だったなんてことも。しかし多少のトラブルもトラブルにしないのがすごいところ。なんとかしてなんとかなってしまうのが平山さんの魅力だ。ミッションを完了できなかったことはない。愛らしく、愛される、愛すべき人なのだ。そして、受けた愛情を何倍にもして、シェアできるひとである。仕事を終えたら、現地の人たちと酒を酌み交わし交流する。いまではどこに行っても友人がいる。
そんな平山さんが再び甲府にやってきた。今回も披露宴での仕事で、その翌日、時間があるそうなので甲府案内を買ってでた。平山さんも甲府の情報をすでに収集していて行きたい場所に目星をつけていた。朝、チェックアウトを済ませた平山さんをピックアップしてアキトコーヒー、お昼はパタゴニアの南の喫茶店、その後は昇仙峡でその日限りのハードロックイベントがあるということで、面白そうなので一緒に行くことに。
Illustration by Koichi HIRAYAMA Iパタゴニアの南喫茶店にて
行く先々で、平山さんはペンをホルダーからサッと取り出し、画を描き始める。相席でたまたま一緒になった人たちと、話しをしながら、その場の風景を切り取っていく。平山さんによるこのような“絵日記”を作成することは、トレーニングなのだという。披露宴の制限時間内でほぼ初めて出会う全員を描くということは並大抵のことではない。移動中の電車の中や、行った先々で仕事の感覚を養うために、ペンを握ることを欠かさない。平山さんの絵日記はコミュニケーションの潤滑油としての機能も兼ねる。会話しながら描かれた人々はみんな一様に笑顔である。相手がどこの出身者であれ、平山さん自身も各地に密度の高いつながりを持った友人がたくさんいる。なので地元以上にその土地のことに詳しかったりする。仕事の後に街に繰り出し、地元に根付いたお店を回り、人々と生の交流をすることによって培われた引き出しは伊達ではない。そうしてさらに交流の輪が広がっていく。仕事から東京へ戻る際は、いつも、バックパックは出発以上にいっぱいになる。なぜなら土地で知り合った友人たちからの、感謝の手土産が詰まっているからだ。
昇仙峡をのぼり、天神森へ。ここにはホッドロッド界の重鎮Genさんのガレージがある。カスタムカーやアメリカンカルチャーを愛する武骨でイカシた人々が集う場所だ。
この日はLAのヴェニスビーチ発、注目のハードロックパンクバンドSHRINEがジャパンツアーの一環として山梨昇仙峡でロックサウンドを響かせた。SHRINEはTHRASHER MAGAZINEにもピックアップされるほど、スケートカルチャーに深く根ざしているバンドであり、日本でもファンが多い。そんなバンドのJAPANツアーのリストに、山梨県昇仙峡の私有地のステージが掲載されている。ダイレクトに呼んでしまうというのはなんともパワフルでアメリカらしい。スケート、ロック、アメリカ西海岸のハードコアカルチャーを山梨昇仙峡に持って来てしまうGenさんと仲間たち、Felemスケートチームのパワーと入念な準備やプロモーションは並大抵なことではないだろうと容易に察しがつく。ちゃんと応えて来てくれるSHRINEの心意気もロックである。
森に鳴り響くギター、シャウト、ビートとベース。呼応するオーディエンス。モッシュしまくるロックキッズ達の輪の中で、ノリノリの平山さんがその場でSHRINEライブの様子を描き下ろした。一筆書きの速筆で描かれた画にはバンドの持つパワーと臨場感がそのまま宿っている。
昨年、この場所にはGenさんとFelemスケートチームが協力してプールを作った。プールといっても泳ぐためのものではない。スケートをするためのプールである。(ロードオブドッグタウンを観ればお分かりいただける。下記にトレーラーを貼り付けておく。)
しかもあえて、フチにはしっかりとタイルが埋め込まれている。これでは引っかかって滑りにくいではないか。当然だ。滑るために滑りやすくつくるのではなくリアルなプールを再現することでLAのリアルスケートライフを昇仙峡の森の中に具現化することが彼らの美学なのだ。
この日、ぼくらを天神森へ誘ってくれたのは、山梨出身で世界中旅しながら、現在は川崎を拠点に、スケートとストリートカルチャーを愛するフリースタイルイラストレーターWAMとその仲間達。彼らのこともいずれここで紹介したいと思う。イラストを描くもの同士、共鳴できる気がしていた。普段の甲府にはない刺激とタイミング、色々な要素が重なり、混じり合い、人を引き寄せる大きな力が確かにはたらいていたのだと感じる。最後は平山さんも含めてみんなでワイワイ騒ぎながら、会場の撤収作業も手伝った。平山さんの環境適応能力はハンパじゃない。撤収作業も慣れたもの。ただのイラストレーターではくくれない、生粋のサバイバーだ。
最後はこのイベントのコアをなすGenさんファミリーと仲間たちのイラストを仕上げた。
「甲府は、ハードロックとスケートの街なんだね」甲府駅まで見送る際、平山さんはすっかり甲府にそんなイメージを抱いてしまった。ああどうしよう僕のせいだと思う反面、街の印象をどう感じても、その人が感じるままで僕はいいと思っている。変に取り繕うこともしたくない。「一応、今日は特別ですけどね」そう告げて、再会を約束した。
今日は特別。平山さんにこの日、偶然に会った人たちだってきっとそう思っている。
そう思わせる不思議な魅力が平山さんにはあるのだ。
0コメント