PASCAL・MARIE・TAMAKI/PMD ALREADY FAMOUS TOUR 17 in Yamanashi irie 8.27
マリエが甲府にやってきた
自身の名を冠したブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS (パスカル・マリエ・デマレ以下:PMD)」は「東京で売らない」という販売手法がローンチとともに話題となった。そして洋服を媒介に、「モノ」の消費行為そのものを見直すというコンセプトがある。オンライン販売されたのは白のグラフィックTシャツが一型。M~LLまで各サイズ24枚づつ計72枚。コットン100%素材。パターンやソーイング、構想に4年の月日をかけたこだわりの詰まったTシャツだ。おとしこまれたブランドのタイポグラフィはプリントを20回重ね、立体感と厚みをもたせた。NYのストリートシーン御用達のシルクスクリーンプリントの工房 LQQK (ルック)STUDIO と制作。ブランドコンセプトを体現するプロダクトである。自分でオリジナルのTシャツをつくったことがある人はわかると思うが、ボディが既製品のものでさえ、いろいろな人や業種を介しコストと手間がかかる。時間をかけプリントと型にこだわったプロダクトが13,800円で販売されることは非常に良心的に感じる。ファーストデリバリーは全数が5分で完売となった。第二弾の高級オーガニックコットン「アルティメイト・ピマ」を使用した黒ボディのTシャツも新たにパターンを起こし販売開始に向け準備中とのこと。
ローンチから2ヶ月、PMDは新たなプロジェクトをスタート。「ALREADY FAMOUS TOUR17」と題して全国15都市セレクトショップやファクトリーをバスでクルーとともに巡回している。セレクトショップではオリジナルツアーTシャツを直販。会場は、マリエ自身が足を運び決めたという。大量に並べられ、消費されていく洋服。その洋服がつくられる過程から、リテーラー(本人は小売という言葉に代わる呼称を模索している)を介してカスタマーの手に渡るまでを出会う人とともにマリエ自身も日々学び、見直し、発信していく旅路だ。その模様はGo Getterzサイト内で独占配信されている。(僕とLILYもちょっとだけ映っていた。嬉しい。)
山梨の会場となったのはメゾンマルタンマルジェラ、ワコマリアなどを取り扱うセレクトショップirie。僕も長年公私ともにお世話になっている甲府のショップだ。オーナーである溝井くんこと溝井伸輔は独特のこだわりを持っている洋服ジャンキー。飄々としていながら実質一クセ、二クセもある人物。ものの捉え方、見方、バイイング、どれも自身の信じる感覚と目を柱に、人の意見や風評など意にも介さない。その毒気が魅力だ。顧客からの信頼も厚い。そんなirieが会場としてPMDのツアー会場としてマッチアップしたことは個人的に納得のいくものだった。おそらく(というか本人が懇親会のバーベキューで語っていた)溝井くんはPMDやデザイナーであるマリエについての造詣は深くない。前知識は皆無だ。最初の打診では他店を紹介するとまで言ったそうだ(笑)だからこそ、純粋に服そのものや製造プロセス、ブランドのフィロソフィー、販売手法に共感し、irieでの実現に至った。そんな溝井くんに、あらかじめ行きたい旨を伝えておいたところ、当日わざわざ詳細な連絡をくれ、夜のバーベキューにも参加させてくれた。
50枚弱用意されたツアーTシャツは完売。
NYは名門パーソンズ美術大学への留学を経て、ファッションデザイナーとしてキャリアを歩み始めたことは既知であったが、遠い存在であるマリエが自分たちが住まう地域に来ていたというのはとても距離が近くなった気がして、無性に嬉しかった。そのときは休暇でふらりと行楽に訪れた程度にしか思っていなかったが、今にして思えば、「ALREADY FAMOUS TOUR17」のためだったのだと理解できる。
デザイナー 玉木・マリエ・パスカル
ほぼすっぴんのようなナチュラルメイクに、髪の毛も無造作におろしているだけ。ありのまま、自然体の姿が美しい。訪れたカスタマーに自ら声をかけ、ひとりひとりとの対話の時間を大切にしていた。「これからは東京じゃないといけないってことはないよ。自分が拠点となって、そこで何をするかのほうが大切になってくる。というか、もうすでになっていると思う」。かつてエンターテイメント業界や、ファッションカルチャーの中心にいながらにして、あえてなぜローカルに目を向けるのかという、僕の問いに分かりやすく言葉を選びながら迷いなく、優しい口調で彼女は答える。「わたしは“東京”に対してそれ以外の土地を“ローカル(地方)”というくくり方、見方はそもそもしていないよ。その土地のアイデンティティはそこにしかないからね」彼女は続けた。テレビ画面で見ていたタレント・マリエ、雑誌のファッションエディットで見るモデル・Marieよりも、目の前にいるデザイナー・玉木・マリエ・パスカルの飾らない言葉と笑顔は無垢で素敵だった。彼女の口から語られる言葉だからこその説得力がある。性別や業種を越えて、自分の好きなことを徹底的に追及しチャレンジする姿勢が心からかっこいいと思えた。
クルーに同行し、ツアー写真を記録するウクライナからの留学生ヴィタリもマリエを姉のように慕う。人づてにマリエと知り合い、人間的な魅力に惹かれたと語ってくれた。「生産者の声に耳を傾け、ファクトリーで洋服が作られている工程を間近で見て感動の涙を流す。そんなマリエさんのピュアなところやストイックな姿勢はかっこいいし、尊敬している」。彼の真っ直ぐな言葉はマリエの人となりを嘘偽りなくストレートに捉えている。ヴィタリの記録する写真も素敵なのでぜひPMDのインスタグラムをチェックしてほしい。
9年前に発行され、ヨネさんが全編撮影の「WARP LOVERS」を持って行った。マリエが表紙と巻頭を飾った個人的にお気に入りの一冊である。当時の姿がヴィタリには新鮮に映っていた様子。
知ることで洋服はもっと楽しくなる。
僕はファッション業界に身を置いているわけではないが洋服とそれにまつわるカルチャーが好きだ。それは人との繋がりが大きい。周りの好きな人、お世話になっている人に洋服屋さんが多く、コレクションを追うよりもその人がその人の言葉でブランドのクリエイションを語り、一着の背景にあるバックボーンを教えてもらえるのが楽しい。その人の好きなように服を着ればいいけど、なぜその服を着ているのかを理解し明確にしておく必要があるという旨のことを、新世代を台頭するスケーター・デザイナー・アーティストのブロンディ・マッコイはhoneyee.comのインタビューで語っている。まさしく僕が着たいと思える、洋服を選ぶ理由はそこにある。パターンやデザイン、素材はもちろん、ブランドが込めた思い、製造プロセス、デザイナーのメッセージを身に付けることで生まれるコミュニケーション。だからこそ、売り手も買い手も知る必要があるのだ。「ALREADY FAMOUS TOUR」は服と一緒に、思いを届けている。デザイナーが先頭に、店頭にも立って直接手渡しをする。買い手は価格やプロダクト以上の希少価値を見出だし、売り手は自らが発信するメッセージをダイレクトに届けられる。SNS による単方向で間接的な情報が主流になっている今こそ、生の声での言葉のやりとりが重要なのだ。売り手も買い手も得られる情報は濃密だ。僕はこのかつての行商のようなアナログスタイルを恐縮ながら称賛したい。ツアーTシャツの背には会場の名前が一つ一つ刻まれている。訪れる土地でマリエとそのクルーは、服とともに双方向で人(生産者)と人(消費者)とを繋げているのだ。既存の構造システムから脱却し、「ファッションをもっと面白くしようよ自由に楽しもうよ」彼女の振る舞いや言葉、そしてプロダクトからはそんなメッセージが伝わってくる。服を通じて人々を笑顔にするマリエも一期一会の出会いを楽しんでいるはずだ。
ツアーバスは今週は東海道を行き、さらに西へと進んでいく。「ALREADY FAMOUS TOUR 」が街を訪れたらぜひ会いに行って見てほしい。わずかな邂逅と彼女の言葉に僕は刺激を受け背中を押された。今後のスケジュールはGo Getterzを参照しよう。
PMD CEO/デザイナー玉木・マリエ・パスカルとPMDクルー、irieに感謝と敬意を込めて。
(文中敬称略)
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