HENRIK VIBSKOV IN AMAZON FASHION WEEK
僕の冬のワードローブ、不動のレギュラー、スタメン、エース。それはHENRIK VIBSKOV(ヘンリックヴィヴスコフ)のロングコートだ。交流の深い甲府のセレクトショップilkで数年前にサンプルセールで流れてきたものを買った。ヘンリック自身が着ればジャストサイズのチェスターコートになるのだろうが、僕が着るとマキシ丈。身幅も大きめ。最近はそういったスタイルのものは見慣れたが、トゥーマッチなオーバーサイズ感のあるコートに当時なかなか出会えなかった。一目惚れしたのだ。ダブルボタンの硬派なツラも野暮ったくて最高だ。トレンドにとらわれず、これから先も長く着たいと思う。
そんなHENRIK VIBSKOVが今年のアマゾンファッションウィークで日本での初のランウェイコレクションを行った。僕にとっても、観る者としてのランウェイデビューだ。当日の会場の様子、ランウェイの模様を写真とテキストでお届けする。まずなによりもこの会場に誘ってくれたilkを運営するRideal代表、後藤晋也氏に感謝したい。プレゼンターとしてHENRIK VIBSKOVを招致しランウェイを実現したのはかつて後藤氏も在籍、立ち上げに携わったDUNE CO.,LTD.だ。ショールーム Nid Tokyoを運営しHENRIK VIBSKOVを始め国内外、新進気鋭のデザイナーズブランドの日本代理店を務める。
ランウェイショー運営スタッフはみな「TEAM VIBS」のドクターコートを羽織る。
このドクターコート、タグに1から100まで手描きのナンバリングがなされている。
Nidで働くミクちゃん。山梨にもちょくちょく足を運んでくれるilkと交流のあるスタッフだ。この日はレセプションとして活躍。忙しそうである。
DUNEの代表高橋氏。つまり、HENRIK VIBSKOVを日本で展開する一人であり、ランウェイを実現した立役者。
FASHION SNAP.COM のフォトグラファーで個人でもファッション写真家として活動するジョーくん(@byjoek)も会場に駆けつけた。VOGUEの主催するFNOに行った際、表参道の喫煙所で偶然知り合ったいつも素敵なナイスガイである。ストリートで見かけたらシャッターを切ってもらおう。
ジョーくんがスナップしたのはNidの店長として、バイイングも行っていたヨウヘイさん。トップスはバッチリHENRIK VIBSKOV。ヨウヘイさんは現在STUDIO NICHOLSONを始めレディースブランドを主に取り扱うCHI-RHO inc. に在籍。
ilkのスタッフ河野玲王(こうのれお)も掲載。
30分押しで開場し、人入れ。東京での初のランウェイともあってメディアやバイヤーたちの関心も高い。意外と会場は小さい印象だった。ともあれ、ヘンリック・ヴィヴスコフはデンマークのファッション、アート界において権威ある人物。Rideal後藤氏いわく東京でショーをするというだけでも奇跡みたいなものだという。それを実現したのはHENRIK VIBSKOVへの愛情と影でたくさんの人が汗を流したからに違いないのだ。
コレクションの全体像は大手ファッションメディアで取り上げられているので、詳細はそちらを参考にしてほしい。
ゲストブランドとして東京に招かれたHENRIK VIBSKOV。アパレルブランドではあるが、デザイナーヘンリック・ヴィヴスコフはアートにも精通する人物だ。今年8月には金沢21世紀美術館で日本とデンマークの外交関係樹立150年を記念した展覧会において、展示とインスタレーションを実施した。
ランウェイは毎回、会場装飾から徹底的に世界観を作り込む。デジタル表現やテクノロジーを用いた手法が盛り上がる中で、非常にプリミティブでアナログティック。一貫したフィジカリティへのこだわりが現代アーティストとしての矜持を感じさせる。
過去のコレクションや金沢21世紀美術館については下記リンクVOGUEの記事参照。
2018SSのコレクションテーマは「THE GREAT CHAIN OF SLEEPERS」。名のごとく、眠りをテーマにしたコレクションとなっている。このコンセプトに至った発想のプロセスも面白い。
ランウェイには作業着を着た鳶職人たちが登場。これは、ヘンリックがかつて東京を訪れた際、高所で作業する鳶職人の姿が印象的だったことから取り入れた。協力は有限会社ヨシダ建装。
静かにストリングスのメロディが会場に流れた。不思議でいて不気味な雰囲気を演出する。職人たちはランウェイに置かれたアーチ型のポールを持ち上げ頭上に掲げる。寝袋を丸めたような物体がぶら下がっている。ドクターコートを着た人物がランウェイに現れ、ヒモをほどくと、ヘンリックのカラフルなグラフィックが垂れ幕のように広がった。寝袋というよりも布団のような形状だ。うまくほどけずに広がらないものもあった。ランウェイ後の囲み取材では記者にそのことを突っ込まれていたけれど本人は「失敗することもあるよね。人は失敗から学ぶ。それもまたいい経験」と笑顔で意に介していなかった。デジタルにはない予期せぬトラブル。不完全さを含めての表現ということか。「完全な人間など作れない。不完全さが失われたらそれはもう完全な人間とはいえない。」なんてパラドックスめいたセリフをマンガで読んだことがあるが、ヘンリックもまた人間らしさを大切にし、「失敗」に寛容な人物なのだろう。そもそも今回のコレクションも、前回居眠りをするスタッフを見て思いついたのだから。
音のゆらぎに合わせ、職人たちはポールを揺らす。音楽が一転。ハイテンポなドラムンベースに切り替わり、モデルたちが登場。職人の掲げるアーチ型のポールフラッグを周回するようにウォーキングを披露した。
人の眠る内に見る夢というものは不規則で突拍子も脈絡もない。悠久の時を感じさせることもあれば、ジェットコースターのように突然落ちていく夢もある。そして脳裏の片隅にべっとり焼き付き、轍を残す。ヘンリックの表現したランウェイはそんな美しい悪夢を彷彿とさせた。
「Beautiful show.」
僕は長身の彼を見上げそう伝えた。「Thanks.」と笑顔で彼は天から僕を見下ろす。その一瞬の邂逅はイエスが夢から出てきて僕にお告げをくれたような感覚だった。
今期のコートも好みの顔だ。ぜひその混沌とした美しきアートピースを手にとって身に付けてみてほしい。デザイン性だけでなく、着用していくと身体に素材が馴染んでいくのも高級既製服の楽しみの一つ。自分の身体にフィットする服は不思議と見栄えするものである。
HENRIK VIBSKOVのアイテムはilk、Nidのオフィシャルサイト から購入することができる。
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